ハジメの部屋

創作とかやっていけたらなぁ、などと思いまして

オーディネイター・ボーイ #1(改稿)

ここにはなにもなかった。あるはずであろう建物も、その残骸もなにもなく、ただただ荒野が広がるだけであった。ちらほらと生き物は見えるがそこにはまるで人という存在が見ることができず、まるで『人いた痕跡そのものが消えた』ように見える、そんな世界。

その世界に場違いな物が浮いて動いていた。それはまるで巨大な船であった。赤い荒野とは正反対の海のように青く、それでいて白いラインが引かれている巨大な船。そしての船体には大きく『GRAND VANGUARD Ⅴ』と書かれていた。その中では人が慌ただしく動き回っており、この船のブリッジと思われる場所には1人の男が深刻な顔で腰をかけていた。

「艦長!GR-05から通信です!」

「……繋いでくれ」

≪艦長、彼がこの時代に来た。グランドヴァンガードを動かしてくれ≫

GR-05と呼ばれたものからの通信を聞いた艦長はその顔を沈め重々しい声で切り出した。

「しかし、辛いものだね。見ず知らずの若者を戦いに繰り出さなくっちゃならないというのはさ……」

≪しかし艦長、クロノスジェネレーターを動かすには……≫

「わかっているよ……ならばこそ、私はその罪を被ろうじゃないか。ミツル!」

「は、はい!」

「全艦に通達!我々はこれよりグランドヴァンガードはオーディネイターの回収に向かう!GR全機は出撃準備!」

「了解!我々はこれよりオーディネイターの回収に向かいます!」

ミツルと呼ばれた男が出された指令を復唱し、その指令を聞いた人々の慌ただしさが余計に早くなっていった。

 

 

 

#1 紅き大地に落ちた先

 

 

 

ビューッ!と風が切るような音が耳に入り僕は目を覚ました。確か僕はブレスレットの光を見て気絶してたはずだった。目覚めた場所はベットがソファ、だいたいが寝る場所だと想像してた。けど僕の目の前に飛び込んできたのは違う景色だった。

本来立つべき場所である地面が僕の眼前にあり、立つべき場所ではない空が僕の足元にあるということ。これはつまり……

「なんか落ちてるんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!!」

悲鳴をあげた。そうすれば誰か来てくれるかなと思った打算的なものじゃなくて反射的に出てきた言葉。あまりに理不尽な状態だったからこそ出た言葉。そして悲鳴をあげたら何故かどんどん頭が冷えていきたどり着いてはいけない答えにたどり着いてしまった。

「てかこれ頭から落ちてるから間違いなく死ぬぅぅぅぅぅ!!!!誰か助けてぇぇぇぇぇぇ!!!!」

今度は悲鳴ではなく絶叫であった。涙も出てきた。こんな理不尽な形で死にたくない。その一心だった。だけどそんな悲鳴も誰にも届かずに僕は死んだ……

 

 

 

「はず、だったんだけどなぁ……」

寝覚めの補助具なしスカイダイビングをすることを強要された僕は死なずになんとか生きていた。無論、無傷で着地!というわけには行かなかったが運良く落ちた先が柔らかい砂地であり、さらにその落ちた砂地に布のようなものがありそれが衝撃を吸収してくれたおかげでもある。早い話が運が良かった。というか良すぎる。

しかし、それからが問題だった。いくら衝撃が吸われたとは言えど反動は帰ってきて軽く吹っ飛び転んで着ていた服はボロボロの布切れになってしまい、おまけに足を捻ってしまい補助なしでは歩けなくなってしまった。これからどうしろってんだ。

今の僕は捻った足をかばいながらなんとか座れるような手頃なものを見つけて周りを見回している。しかし……

「びっくりするほど何にもないな、ここは……」

そう。本当に周りに『何もない』のだ。これは夢だと思いたいけど捻挫した足の痛みはズキズキとその思いを刺していく。

「最近流行りの異世界転生、だったっけな。憧れはしなかったけどいざ我が身になるとこんなにも辛いなんてな……おまけに俺はトラックになんか轢かれてねえっつーの。」

僕の愚痴は誰にも聞かれず荒野に吸い込まれていった。それが余計に寂しさを駆り立てる。

これからどうする?

どうやって帰る?

僕はあの光で死んだのか?

そもそも僕はなんでここにいる?

様々な疑問が頭を駆け抜ける。けど、そんなことよりも僕には心配なことがあった。

「御狐……」

御狐陽子、僕の幼馴染であり大親友。思春期だからなのかはしれないけど少し意識はしてる。でも掴み所がなくて翻弄される。けど、僕のことを真っ先に心配してくれる奴。

「アイツを一人にしないって約束、破っちまったなぁ……ちくしょう……」

落ちた時の風で冷やされたのか、僕の頭は自分が死ぬことよりも御狐のことを心配している僕がいた。

「はぁぁぁ……」

重く深いため息を自然とついてしまう。けどそれは誰にも聞こえない……と思っていたら空からグォォォォ!!!という爆音が聞こえてきた。

「うわぁぁぁ!?今度はなんだよ!?戦闘機か!?」

しかし上を向いて見たらそこには戦闘機よりも馬鹿でかいものが浮いていた……

「SFの戦艦か……?」

しばらくボーッとその光景を見ていたら戦艦みたいなやつから声が聞こえてきた。

『君が、斑鳩弥くんかな?』

「えっ!?なんで僕の名前を!?」

『その反応なら正解のようだね……君をこの船、グランドヴァンガードで保護したい。よろしいかな?』

その船から聞こえてきた声がした提案は魅力的なものだった。行き場のない僕を取り敢えず場所を与えてくれるということと思えたからだ。僕にはこの誘いを断ることなどできなかった。

「本当か!?是非お願いします!!!」

『うんうん。承諾してくれたかぁ〜。よかったよかった。じゃ、これから船を下ろすんだけど動けそう?』

「それが難しいんですよ。今足を捻ってしまって……」

『ふむふむ……わかった!ならばこちらから迎えを出そう。ミツル!GRを!』

『了解!ナギちゃん!GRで彼を迎えに行ってあげてくれ!』

「GR……?」

聞いたことのない単語が出てきて首を傾げざるを得なかった。戦闘機かそれとも輸送ヘリなのか……疑問に思っていることが見えたのか、船にいる人は僕を安心させるかのように優しく話しかけてくれた

『君の時代にはまだ無いものだ。なぁに、すぐにわかるさ。』

「はぁ……」

そんなやりとりをしていたら船のハッチと思わしき部分が開き、巨大な……そう、遠くから見てもわかるシルエットが見えた。そしてそのシルエットは徐々にこちらに近づいてきて、全容が見えてきた。

灰色の走行を見に纏い、巨大なブースターで機体を支えて僕の目の前に降り立ったもの。それはまさしく……

「人型の巨大……ロボット!?」

『そう!これこそGR!略さず言うとグラビティ・ローダーだ!カッコいいだろう?』

グラビティ・ローダーと呼ばれた灰色のロボットは僕に手を差し伸べ、僕をその掌の上に乗せた。

『艦長、そんなくだらないことを話してないでさっさとこの人を回収しますよ。怪我もかなり深く負ってますし』

「女の人の声……?」

ロボットから聞こえた声が気になりながら僕は痛む足を抑えながら掌の上でジッとして船に上がるのを待っていた。だけど急にアラートのような桁たましい爆音が船からこっちまで響いてきた。

「な、何!?」

『か、艦長!大変です!ファクトレスが急に接近してきました!その数10!』

『参ったねぇ。よりによってこのタイミングかい?』

「あ、あの!」

『うん?』

「そのファクトレスってのは一体……?」

僕は何故かその言葉が気になり質問をして見た。どうにも嫌な予感がとってもしていたからだ。アラートみたいなのもなった。そうなると考えつくのは……

『ファクトレスについてとこの世界の諸々について話したいのは山々なんだけどいかんせん状教が最悪すぎるんだよね……けど、多分だけど君の考えてることは当たっているよ。』

「じゃ、じゃあ……」

『そう、ファクトレスは私たち人類の敵だ……すなわち、君を襲ってくる。』

冷や汗がどっと出てきた。体が震えてきた。怖い。僕の考えていたことが的中した事実が。これじゃあ何も為すすべもなく殺されるんじゃあないか……?

そんな僕の不安を感じ取ったのか船から聞こえてきた声は優しげに語りかけてきた。

『なぁに、心配はいらないさ。ナギ!サブシートは空いてるね?』

『えぇ、ちゃんと空いてますよ。って艦長まさか!?』

『そのまさかさ。ファクトレスとの交戦までに彼をグランドヴァンガードに送れるかと言われたらそれは難しいし、何より運んでる最中に敵に狙われたら元も子もない。だからこその判断だよ。わかるね?』

『それは……わかりますけど』

『よーし、頼まれてくれたね!君はある程度ファクトレスをいなしたら速攻で船に戻ってくれ!ミツル!トウキとセンリを出撃させる!』

『了解!』

なんだか慌ただしくなって僕が口を挟むような空気は無くなっていた。しかしひと段落したのかまた船からの声は僕に向けたものになっていた。

『さて、と。弥くん、で良いかな?』

「は、はい。」

『今から君はそのGRのコックピットに乗ってもらうんだけど、すんごく揺れるから気をつけてね。』

「わ、わかりました!」

その言葉と同時に掌はロボットの胸の前に動いて、ガシャン!とロボットの胸が開いた。その奥から出てきたのは銀色の長い髪をポニーテールに縛っていて、宇宙服に似たような服を着た女性だった。

「大丈夫?1人で乗れそう?」

「は、はい……なんとか……アイテテテ」

「って、無理しないの。ほら」

「ありがとうございます……」

僕はその女性の手を借りてなんとか開いたロボットの胸の中に入ることができた。

その中は簡素な作りの椅子の前に大量のメーターみたいなものが置いてあるコックピットになっていた。そしてその斜め後ろにもう一つの椅子があって、シートベルトのようなものもつけてあった。

「取り敢えず君はそこに座って。」

「わかりました!」

僕は指示の通りに椅子に座りシートベルトをキッカリと締めた。そのことを女の人は確認する船の方に連絡を入れ始めた。

「艦長!斑鳩弥の保護に成功しました。このまま帰還しま……っ!?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

しかしその最中に椅子が大きく揺れた。急な揺れで僕は情けない声を上げてしまった

「大丈夫!?」

「驚いただけで大丈夫です!というか一体何が!?」

「敵襲ね……!」

「じゃあ、さっき言ってた!?」

「そう、あれがファクトレスよ!」

そう言って女の人は椅子の前の画面に映っている戦闘機のようでいて虫のようでもある存在を見せてくれた。

「あれが……!」